第10章 自然言語処理分野におけるGNN
はじめに
グラフは,自然言語処理(NLP; Natural Language Processing)における言語構造を表現するために幅広く活用されている. 例えば,構文木は与えられた文のフレーズ構造をグラフとして表現し, また依存構造木は文法的依存関係(構文的関係)を木構造のグラフとして符号化する(Jurafsky and Martin, 2000). また,抽象的意味表現(AMR; Abstract Meaning Representation)は,文章が伝える内容を,プログラムが容易に探索できるような「根(root)ノードを持つラベル付きのグラフ」として表現する(Banarescu et al., 2013). これらの自然言語のグラフ表現は,豊富な意味情報や構文情報を明確な構造的方法で伝えている. また,これらのグラフには上述したものの他に,特定のタスクに特化した設計されたグラフも含まれている.
このようなグラフを活用したグラフニューラルネットワーク(GNN)は様々なNLPタスクで採用されている.具体的にGNNは,以下のような,多くのNLPタスクの性能向上に貢献している:
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意味役割のラベリング
- 参考文献:Marcheggiani and Titov.(2017)
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(マルチホップ)質問応答(QA)
- 参考文献:De Cao et al.(2019); Cao et al.(2019); Song et al.(2018a); Tu et al.(2019)
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関係抽出
- 参考文献: Zhang et al.(2018c); Fu et al.(2019); Guo et al.(2019); Zhu et al.(2019b); Sahu et al.(2019); Sun et al.(2019a); Zhang et al.(2019d)\
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ニューラル機械翻訳
- 参考文献:Marcheggiani et al.(2018); Beck et al.(2018)
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Graph-to-Sequence
- 参考文献:Cohen (2019); Song et al.(2018b); Xu et al.(2018b)
上記の他に,多元的で複雑な関係性を符号化した知識グラフについても,自然言語処理(NLP)タスクに広く採用されている. そしてこのような知識グラフを一般化したグラフニューラルネットワーク(GNN)モデルに関しても多くの研究が存在している(Hamaguchi et al., 2017; Schlichtkrull et al., 2018; Nathani et al., 2019; Shang et al., 2019a; Wang et al., 2019c; Xu et al., 2019a).
本章では,「意味役割のラベリング」,「ニューラル機械翻訳」,「関係抽出」,「質問応答」,「グラフ構造データからシーケンスデータに変換する学習」といった例を挙げ,GNNがどのようにNLPタスクに適用されているかを見ていく. また,知識グラフに特化したGNNについても紹介していく.
目次
- 10.1 はじめに
- 10.2 意味役割のラベリング(SRL)
- 10.3 ニューラル機械翻訳
- 10.4 関係抽出
- 10.5 質問応答 (QA)
- 10.5.1 マルチホップ QA タスク
- 10.5.2 Entity-GCN
- 10.5.2.1 Entity グラフ
- 10.5.2.2 Entity グラフ上での Entity-GCN によるマルチステップ推論
- 10.6 Graph-to-Sequence 学習
- 10.6.1 Graph2Seq におけるエンコーダーおよびデコーダー
- 10.7 知識グラフ上の GNN
- 10.7.1 方法 1:知識グラフ用のグラフフィルタ設計
- 10.7.2 方法 2:知識グラフの単純グラフへの変換
- 10.7.3 知識グラフの補完
- 10.8 本章のまとめ
- 10.9 参考文献